刃物産地で全国初の伝統工芸品『越前打刃物』とは?歴史・特徴・製造工程をお伺いしました【福井県の伝統工芸品】
福井県には、経済産業大臣指定の伝統工芸品が7品目あります。
今回はその中でも、越前市で作られる越前打刃物にフォーカス。
グッドデザイン賞の受賞経験もある『株式会社 龍泉刃物』さんで、越前打刃物の歴史、製造工程などを詳しく伺ったのでご紹介します!
伝統工芸品とは?>>福井県の伝統工芸品&ものづくり12選
越前打刃物とは
越前打刃物は、主に福井県越前市で作られている刃物のこと。
昭和54年に刃物産地としては全国で初めて伝統工芸品の指定を受けました。
現在でも、日本古来の火づくり鍛造技術、手研ぎを守り、職人たちが一本一本丹精込めて作っています。
越前打刃物の歴史
越前打刃物の始まりは700年も前にさかのぼります。
1337年(南北朝時代)、京都の刀匠・千代鶴国安が、刀剣制作に適した地を求めてこの地にやってきました。
国安は、刀剣制作の傍ら周辺の農民のために鎌をつくり、それが時代とともに刃物づくりへと移り変わっていくのです。
江戸時代には福井藩の保護政策で株仲間が組織され、その技術が受け継がれて発展しますが、同時に、漆かき職人が漆かきで全国に出かける際に刃物を売り歩いたりもしていたそうです。
全国の漆掻きの半数が福井(越前)の人間だった時期もあると言われており、越前市のお隣の鯖江市では、伝統工芸品『越前漆器』も古くから作られてきました。
越前打刃物にまつわる逸話は本当だった!?
越前打刃物と千代鶴国安にまつわるある逸話があります。
それは、
「刀は人を殺すための武器ではなく、武士の象徴であってほしい」と願い、刀をつくるたびに狛犬を彫って井戸に沈めた
というもの。
長らく伝説のように語り継がれてきたこの話ですが、最近千代鶴神社(越前市京町)の千代鶴の池をすくいあげたところ、刀2本と狛犬が十数体出てきたとのこと。
なんと、その一つが龍泉刃物さんで保管されていました。
「ご利益があるよ」と増谷社長。
約700年の時を経た狛犬の登場に驚きましたが、越前打刃物の産地に伝わる伝説は本当だったようです…。
越前市で越前打刃物が作られるようになった理由
龍泉刃物の増谷社長によれば、この地が刀剣製作に適していたのは「清らかな水、粘土質の炉、炭、砂鉄など、刃物に必要な物が全て揃っていたからでは?」とのこと。
実際、今でも近くの日野川では砂鉄が取れるんだそう。
「かつては日野川で砂鉄を集め、玉鋼(たまはがね=たたら製鉄で直接製錬された鋼の中でも良質なもの)を見出して刃物をつくっていた」との仮説を立て、増谷社長自ら砂鉄を取って、越前打刃物の歴史を紐解こうとしているそうです。
「南越前町には鋳物師(いものし)や金粕(かなかす)、越前市と南越前町には平吹、とか、関係のある地名もたくさんあるんです」とも教えてくれました。
(※鋳物=金属を溶かし、鋳型に流し込むこと、その製品 ※平吹(吹子)=たたら製鉄が由来と言われている)
越前打刃物の特徴
越前打刃物の最大の特徴はなんといっても、かつての製法を守り続けていることでしょう。
今でも、日本古来の火づくり鍛造技術、手仕上を行っているのです。
そもそも伝統工芸品の指定を受けるためには「伝統的技術または技法によって製造」されていることも条件の一つなので、当然と言えば当然なのですが、実際に龍泉刃物の工場で1本1本手作業でつくっている光景を目の当たりにすると、改めてそのすごさを感じました。
二枚広げ
製法としては、二枚広げ(包丁)、廻し鋼着け(まわしはがねつけ、鎌・苅込みばさみ)も大きな特徴です。
二枚広げとは、2枚重ねたまま裏と表からベルトハンマー(昔は大づち2人、小づち1人で打った)で打ち、2枚が同様に薄く延びるよう手早く作業する工程です。
出典:越前打刃物協同組合
2枚重ねることによって
- 厚みが倍になる
- ベルトハンマーでの圧縮力がよく働く
- 温度が下がりにくくなる
- 製品の板むらが少なくなる
などのメリットがあります。
冷めにくいので作業がしやすい、厚みの調整がしやすい、などのメリットにもつながるそうです。
廻し鋼着け
こちらは鎌や苅込みばさみにおける特徴的な技法です。
越前打刃物の鋼着けの鋼の置き方は、柾置法と呼ばれ、地鉄と鋼を鍛接した後、鋼の片隅から全体を菱形につぶす方法です。
出典:越前打刃物協同組合
全国の産地で一般的に行われているのは『平置法』。
柾置法は越前打刃物ならではの方法だそうです。
平置法に比べて技術の難易度は高いものの、刃がより薄くなり、製品の質がかなり高くなるんだとか。
機械で大量生産している包丁との違いは「同じ鋼でもより微細で緻密。見た目は変わらなくても、より丈夫で、折れない、曲がらない刃物になっていると思う」と増谷社長は言います。
越前打刃物の製造工程
全てが手作業である越前打刃物の工程は、地道な作業の連続。
包丁が1本できるまでにどのような作業が行われるのでしょうか。
- 1.鋼づくりと地鉄つくり:鋼を800℃に加熱し、所定の大きさに鍛造
- 2.割り込みと沸かし付け:地鉄を割り、溝を入れて鋼を入れ込み、鋼と地鉄を鍛接
- 3.先付けと切り落とし:包丁の平らな部分を形づくり、一丁分に切り落とす
- 4.中子取り:柄の中に入る部分を鍛造
- 5.二枚広げ:2枚重ねて所定の大きさに打ち延ばす
- 6.なまし:約800℃に加熱後、空気中で自然放冷
- 7.泥おとしと荒ならし:付着物を取り除き、バルトハンマーで表面をなめらかにする
- 8.仕上げならし:軽く槌で打ち、真っ直ぐに延ばし整える
- 9.裁ち廻し:所定の形に合わせ余分なところを切断
- 10.焼入れ:泥を塗り800℃に加熱後、すばやく水で急冷し、焼きを入れる
- 11.焼戻し:鋼にねばりを持たせるため、150~220℃で約30分熱し、室温で徐々に冷やす
- 12.荒研ぎと中研ぎ:荒目の砥石でおおまかな形をつくり、細目の砥石で刃先を横方向に鋭利に研ぐ
- 13.刀付け:刃の部分を丹念に研ぐ
- 14.仕上げ研ぎ:つやが出るまで磨き、ぼかし機で研ぎ幅の部分をぼかし、小刃合わせをして完成
出典:越前打刃物協同組合
これだけの工程を経て、やっと包丁が出来上がるのです。
気が遠くなりますね…。
文字で書いてもよくわからないので、龍泉刃物での包丁作りの様子を動画で見てみて下さい。
長い歴史と、伝統的な製法を守り続ける職人さんたちの努力。
それらを目の当たりにしてとても感動しました。
実は私も越前打刃物愛用者!
自宅の包丁は、自分で作った(仕上げの工程を体験しました!)越前打刃物なんです。
切れ味抜群で料理上手になった気分になれるので、お気に入りです(笑)