「ものづくりの基本を知ってほしい」工学部の学生が経営学を学ぶ授業の狙いとは【福井大学 竹本拓治准教授インタビュー】

「ものづくりの基本を知ってほしい」工学部の学生が経営学を学ぶ授業の狙いとは【福井大学 竹本拓治准教授インタビュー】
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2月某日。
前週に降った雪がまだ残る東京・南青山に、福井大学の学生さんがやってきました。
彼らが持ってきたのは、自分たちがつくった『福の愉』という日本酒。
この日本酒づくりの経緯や学生たちへの想い、今後の展望などを、福井大学の竹本拓治准教授に伺いました。
竹本 拓治氏
福井大学 産学官連携本部准教授
アントレプレナーシップ(起業家精神)の教育に詳しく、京都大学経営管理大学院経営研究センター特命講師等を経て、2012年より現職。
福井大学の同部署で最初の社会科学系専任教員。

工学部の学生が経営を学ぶ『起業化経営論』

ーー『福の愉』をつくった経緯を教えてください。

福井県の五大学が連携して取り組む、地方創生推進事業(coc+)の中に、『ふくいブランド創出』という部門があります。
この取り組みの一貫で、私が担当する福井大学の『起業化経営論』という授業の中で『福の愉』を作りました。

ーー起業化経営論とはどのような授業なんでしょうか?

この授業では、経営者として活躍する福井大学の卒業生の講義を通して、工学系の学生が経営学を学んでいます。
今回は酒造りをすることになったため、以前から交流のあった吉田酒造の社長にも講師として来ていただきました。

ーー工学系の学生さんが経営学を学ぶイメージがないのですが、どういった狙いがあるのでしょうか?

世界では工学と経営学を共に学ぶのは当然のことですが、日本ではまだ定着していません。
でも私は、工学部の学生が経営学を学ぶのは当たり前のことだと思っています。

工学部なので、卒業後にものを作ることに携わる学生も多いです。
しかし、ものがあっても売れなければ意味がありませんよね。だ
から、ものづくりに携わる人間こそ、経営学を学ぶべきだと思っています。

福井大学吉田酒造福の愉日本酒の画像

ーー海外では普通のことなんですね。実際に『福の愉』を通して、学生さんにどんなことを学んで欲しいと思っていましたか?

『福の愉』をつくるにあたって、学生たちは田植えしてお米をつくる、お米からお酒をつくる、販売促進をするところまで、全ての工程に携わりました。

値段も学生が考えましたが、最初に彼らに「値段はどうする?」って聞いたら「原価はいくらなんですか?」って聞かれたんです。
でも、ゼロからものを作るのに、原価なんてほとんど存在しないじゃないですか。
お米は買ってくるんじゃなくて、自分たちで作るんです。
もちろん、厳密にいえば稲の苗代や経費はかかるんですが、最初から原価ありきで値段を考えて欲しくないと思いました。

「原価が1000円だったら1200円くらいで売る。2割くらいが妥当かな?」ではなく、原価がゼロに近くても、値段はいくらだっていいと思うんです。
重要なのは、消費者がこれだけ払っても買いたいと思えるような、商品への付加価値付け、値段設定なんです。
この点は、吉田社長とも完全に意見が一致しました。

実際、日本の製造業の売上高利益率が3%程度なのに対して、アメリカは10%を超えています。
その点では、日本はビジネスが本当に下手です。
だから学生には、つくったものに付加価値付けをする意識を持って欲しいと思っています。
原価がゼロに近くても、1万円で売ったっていいんだっていう意識。

学生にものづくりの基本を知ってほしい

ーーその他に起業化経営論で学生さんに伝えたいことはありますか?

「工学部の学生が経営学を学ぶ」というのが主題になってしまいましたが、実は、私が学生たちに一番伝えたいことは、「ものづくりの基本」なんです。
工学部は、情報工学など、ものづくりに関係しない部分も増えてきているので、そのような学生にものづくりの基本を知ってほしいという思いがありました。

会社に入ると、ものはどこかから勝手にやってきて、会社から自動的にお金をもらえると考えている学生が多いように感じます。
でも、もちろんそんなことはなくて、ものは誰かが生み出すもの、お金は自分たちで稼ぎ出すものなんです。

仕入れて売ることがビジネスではなく、売れるものを作ることが最も大事だとわかって欲しくて。
それで、米作りから体験してもらうことにしました。

他の大学でも、お酒づくりをしているところは増えていますが、米作りからしているところは珍しいので。
米作りチームには、田植えや稲刈りもやってもらいました。福井大学吉田酒造福の愉日本酒の画像竹本准教授と大学院工学科1年・営業チームリーダー 長谷川航平さん

ーー営業チームリーダーの長谷川さん(大学院工学科1年)は、「ものをゼロから作るには、気にすべき点がたくさんあって、例えば、キャップに貼っているシールやラベルをどこから発注するかから考えなくてはならず、勉強になった」とおっしゃっていました。竹本先生の狙い通りになっているようですね!来年以降、『福の愉』はどうなるんでしょうか?

来年も作るかどうかはまだ決まっていませんが、予想以上に売れているようです。
「ラベルが足りない!」なんてうれしい悲鳴も聞こえてきて。
せっかくなので、来年も継続してつくることができると嬉しいですね。

福井を日本のベンチャー企業の聖地に

ーー起業化経営論の1年目は大成功のようですが、この授業の今後の展望などをお聞かせください。

実は起業化経営論の授業は、福井大学OBで、株式会社ミッションの社長である大井さんの寄付によって成り立っているんです。
日本の大学は生徒の授業料などで運営されていますが、アメリカの大学は、寄付で成り立っていることが多いです。
成功したら寄付するという考え方が根付いているので。

起業化経営論の学生も、卒業して起業に成功したとき、「自分たちも先輩のお金で学んだんだから、後輩に寄付しよう」みたいな流れになると、日本の大学事情も変わっていくのかなと思ったりします。

福井大学吉田酒造福の愉日本酒の画像

もう一つ言えば、起業化経営論では、経営者として活躍する福井大学の卒業生の講義をメインにしていますが、これにも大きな意味があります。

私は東京の大学を出ているのですが、卒業後の選択肢が就職ではなく、起業という学生も多かったです。
起業が特別なことではないんですよね。
それに比べると、福井大学の卒業生は、ほとんどが就職を選択しています。

今まで、福井大学でも、起業家が学生に講義することはありました。
でも、だからといって起業を選ぶ学生が増えたかというと、目に見えた変化は起こっていない訳です。
どうしてだろうと考えてみると、その起業家たちは、学生にとっては遠い存在なんですよね。
自分たちとは全く別の人間だと思っている。
でも、講師が福井大学卒業と分かれば、起業がもっと現実的になるのではという狙いがあります。

日本って、東京一極集中で、経済的には太平洋側が中心ですよね。日本海側は置いてきぼりにされている部分があると感じます。
一方でアメリカを見てみると、経済は東海岸が中心だけど、IT系やベンチャー企業が集まっていることで有名なシリコンバレーがあるのは西海岸です。

それと同じように、東京ばかりにベンチャー企業が生まれるのではなく、福井にもどんどんベンチャー企業が生まれて欲しい。
もっというなら、ベンチャーを立ち上げるなら福井!という世の中にしたいというのが私の狙いです。

ーー日本のシリコンバレーと呼ばれる地域もいくつか出てきていますが、福井こそが日本のシリコンバレーになったら確かにすごいですよね。福井県は社長輩出率も日本一なので、可能性はありそうですね。

日本海側が置いてきぼりと言いましたが、太平洋ベルト上の産業が発展するために、サプライヤーは不可欠です。
日本の政策的な理由や日本海側の土地柄、気候的な理由などがあり、自然な流れで、福井県にもそういった工場が多く存在しています。
そのため、起業の土壌は十分にあるんです。

福井大学の起業化経営論がきっかけで、福井のあり方、日本の産業のあり方や考え方が変わるといいなと思っています。

日本酒の取材に行ったはずが、その背景にあった『起業化経営論』の狙いがとても面白くて、食い入るようにお話を聞いてしまいました。
起業が全てだとは思いませんが、現実的な選択肢として存在することはとても大事だと思います。
大学のあり方、卒業生の進路、福井の位置付けなど、様々なところに影響を及ぼしていきそうな起業化経営論。来年以降、どのような取り組みが行われるのかも楽しみです。

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