伝統工芸品『越前箪笥』とは?歴史や特徴を職人さんに聞きました【福井県の伝統工芸品】

伝統工芸品『越前箪笥』とは?歴史や特徴を職人さんに聞きました【福井県の伝統工芸品】
この記事のテーマ
福井県には、越前漆器越前和紙など様々な伝統工芸品があります。
今回はその中の一つ、越前箪笥について詳しく紹介します!

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越前箪笥の産地・越前市

福井越前小柳箪笥

やってきたのは越前市。
越前市は、福井県の伝統工芸品7品目の中の3品目『越前和紙』『越前打刃物』『越前箪笥」の産地です。

これらの伝統工芸品の産地は市内でも大変局地的であり、越前箪笥の工房、店舗は越前市本町、元町付近に集中しています。

この辺りは、江戸後期から木工技術を持った職人が住むようになり、明治中期ごろには本格的なタンス造りの職人が中心となって『タンス町』をつくりました。
国道365線沿いの200mほどの道はタンス通りと呼ばれており、現在でも和洋家具のお店や建具商など、数十軒のお店が軒を連ねています。

福井越前小柳箪笥

タンス町通り

今回は、長きにわたって越前箪笥を手がけてきた老舗『小柳箪笥』さんに、越前箪笥の歴史、特徴などを伺いました。

越前箪笥とは

平成25年に伝統工芸品に指定された越前箪笥。
奈良時代から伝わるものだと言われています。

経済産業省に登録されている越前箪笥の特徴(定義)は以下の通り。

ケヤキやキリ等を原材料に越前指物技術によって加工し、鉄製金具や漆塗りで装飾されるのが大きな特徴です。

ここからは、越前箪笥の特徴を細かく見ていきましょう!

越前箪笥の特徴① 越前指物技術

越前箪笥には越前指物の技術が使われており、『組みつぎ』や『ほぞつぎ』などの技法がいたる所に見られます。

越前指物は、福井県郷土工芸品の指定を受けています。
指物とは、板と板や棒などを釘を使わずに指し合わせる技法、その技法を用いた製品のこと。

越前指物は、幕末から明治初期に旦那衆の家に出入りしていた指物師が始めたとされています。
高い技術水準を誇り、木材の特性を生かした組子らんま、建具などが作られています。

例えば組みつぎなら、

福井越前小柳箪笥

これが、

福井越前小柳箪笥

こうなるわけです。

福井越前小柳箪笥

今でこそ木材のカットは機械でできるようになりましたが、満足に機材のなかった大昔に、釘を使わずに木をぴったり合わせる技術があったと考えるとただただすごい!としか思えません!

越前箪笥の特徴② 金具

越前箪笥の大きな特徴はなんといっても、そのインパクトのある金具でしょう。
表面のつやつやとした木の輝きだけでも美しいのに、そこに細かな細工が施された金具がつくことで、より重厚な印象を与えています。

私は見るたびに頑丈な宝箱を思い出してしまうのですが、この金具には意味もちゃんとあるんです。

猪目(いのめ)

福井越前小柳箪笥

まずは代表的な猪目(いのめ)。
読んで字のごとく、イノシシの目のことです。真ん中のハート型のくりぬきが猪目と呼ばれる部分です。

昔は獣の目をあつらえると魔除けになると考えられていたようで、寺社仏閣の門や屋根などにも猪目があしらわれることがありました。

福井越前和紙岡太大瀧神社パワースポット

越前市の岡太神社・大瀧神社にあった猪目らしきもの

福井越前小柳箪笥

もくもくと雲のようになっている部分を、その通り「雲」と呼びます。
これは、「いいことがある前兆の雲」を意味しているそうです。

入り如意・出如意

福井越前小柳箪笥

入り如意(左上)と出如意(右下)

「如意棒」という名前を聞いたことがあると思いますが、これは、「西遊記」に登場する架空の道具のこと。
持ち主の意に従い(=如意)自在に伸縮することから、この入り如意出如意も、物事を自由自在に操れるという意味を持つのでは?と言われています。

越前箪笥にあしらわれる時は、このように入り如意と出如意がセットで使用されることが多く、引き出しの周りの木枠の部分につけられます。

福井越前小柳箪笥

越前市は同じく伝統工芸品の越前打刃物の産地でもあり、鍛冶屋さんがたくさんあります。
鍛冶屋さんでは仏壇の金具を作ることも多いため、仏具に関連のあるモチーフがあしらわれることが多いとも考えられています。

また、かつて箪笥は婚礼家具としての要素が強かったことから、縁起を担いだ模様が多く取り入れられています。

福井越前小柳箪笥

越前箪笥には、鍵がついていることも多いです。

一口に箪笥と言っても

  • 掛硯(かけすずり):帳簿、お金とともに筆、墨、硯などを入れるもの
  • 帳箪笥(ちょうだんす):帳簿などを入れるもの
  • 衣装箪笥

など、さまざまな用途の箪笥があります。
大事なものを入れておくことも多いため、それらを守るためにも鍵がついているのです。

鍵の仕組みはこんな感じ。

福井越前小柳箪笥

鍵がかかっている時は縦の金具が下まで突き抜けていますが、鍵を開けると

福井越前小柳箪笥

上に上がりました!

福井越前小柳箪笥

金具は手仕上げ

ここからは、金具の作り方を紹介します。

金具の素材は昔から変わらず鉄。昔は手作業でカットしていましたが、現在は機械で抜いています。
しかし、小柳箪笥では仕上げは手作業で行っています。

機械で切りっぱなしにすると断面がまっすぐになりますが、手でヤスリをかけることで断面を斜めにし、立体感を出しているのです。

福井越前小柳箪笥

さらに、小柳箪笥の金具の断面はこのようにギザギザしています。

福井越前小柳箪笥

これは、手でヤスリをかけていることがわかるように、小柳さんがわざと入れているそうです。

真綿焼き

元々の鉄の色と、

福井越前小柳箪笥

完成形の色、

福井越前小柳箪笥

だいぶ色が違いますよね。
この色にするために、「真綿焼き」、「焼き漆」という作業をします。

まずは真綿焼きから。

金具をしっかりと熱し、(この時の温度は約500℃ほど)

福井越前小柳箪笥

間髪入れずに真綿(繭)をこすりつけます。

福井越前小柳箪笥

すると、繭の動物性タンパク質が付着するのか、このような黒い色になるのです。
この作業によってサビづらくなる、というメリットもあるのだとか。

福井越前小柳箪笥

この時出るニオイが独特で、苦手に感じる人もいるようですが、私は「浜辺で貝殻を焼いているみたい!」と思いました。

ちなみに私も真綿焼きを体験させてもらったのですが、プロとの仕上がりの差は一目瞭然!

福井越前小柳箪笥

左が自分で真綿焼きしたもの、右が小柳さんによるもの

金具の色はこの作業で決まると言っても過言ではありません。
温度によって色のつき方や表面の美しさに大きな違いが出ます。

「何年くらいできちんとしたものが作れるようになるんですか?」との問いに、小柳さんは
「私も経験は2〜3年くらい」と話していましたが、1度に何十個もの金具を仕上げることもあるそうなので、やはり熟練の技が必要な工程と言えるでしょう。

焼き漆

しかし、真綿焼きをしただけではまだ黒さの質が違いますよね。
実は、最後に焼き漆という仕上げをすることで、やっとあの金具の独特の黒さになるんです。

バーナーで熱して、
福井越前小柳箪笥

漆を塗る。

福井越前小柳箪笥

この作業を最低5回は繰り返します。

漆をいっぺんに厚く塗ればいいのでは?と思うかもしれませんが、そうすると変にツヤになってしまって美しくならないんだとか。
また、ある程度の温度を保って焼き付けないとムラができたりするので、これもとても難しい作業のようです。

焼き漆も、真綿焼き同様にさびないための工夫だとされており「100年先200年先、長い間持たせるための作業」だそうです。

そしてやはり、見た目もさらに良くなりますよね。
このように多くの手間をかけることで、越前箪笥のなんとも言えない重厚感が生み出されているのです。

金具の厚み

福井越前小柳箪笥

厚みにも特徴が。
左は昭和頃の越前箪笥の金具です。
右の金具と比べると、若干薄いことがわかりますか?

越前箪笥は昭和に入ると一気に量産化されるようになり、それに伴って金具は薄くなり、デザインも簡素化されていきました。
しかし、現在はかつての工芸品としての越前箪笥の姿を大事にするという意識が産地全体で高まっており、小柳箪笥をはじめ、多くの工房で江戸時代と同じような、厚みのある金具が用いられています。

越前箪笥の特徴③ 漆塗り

越前箪笥の光沢のある質感は、漆塗りによるもの。
越前市のお隣、鯖江市河和田地区の伝統工芸品に越前漆器があります。
その歴史は1500年以上も前にさかのぼるといわれていますが、越前箪笥も、越前漆器の職人さんによって漆が塗られていたそうです。

時代背景も反映された車箪笥

越前箪笥には、車箪笥と呼ばれる種類のものもあります。
名前の通り、箪笥の下にこのように車輪が付いています。
福井越前小柳箪笥

江戸時代は火事が多かったため、逃げるときにすぐに持ち出せるように車がついているそうです。
そのため「車箪笥には帳簿やお金など、大事なものを入れていたのでは」と小柳さん。

また、火事と箪笥と言えば、

  • 桐箪笥は燃えにくい
  • 引き出しを閉めると真空状態になるので、中のものが燃えない

といったことも言われています。

どこまで計算して作られていたのかはわかりませんが、箪笥一つから、かつての時代背景も読み取れるのは面白いですね。

からくりのある箪笥も!

こちらは一見普通の箪笥ですが、

福井越前小柳箪笥

福井越前小柳箪笥

実は引き出しの後ろにもう一つの引き出しが隠れていました!

これはかなり単純な仕掛けですが、越前箪笥にはからくりが用いられることも多く、物によってはすごく複雑なからくりが仕掛けられていることも。

越前箪笥に使われるからくりを図解した物を見せていただきましたが、私がちらっと見ただけでも、『はずし戸』『爪掛戸』など、10種類以上のからくりがありました。
また、時代をさかのぼればさかのぼるほど、手の込んだからくりが多いんだそうです。

鍵、車箪笥、からくり…。大切なものを守るために、箪笥にはさまざまな工夫が凝らされているんですね。

越前箪笥の歴史

最後に、越前箪笥の歴史をちょっとだけ紹介します。

江戸後期から木工技術を持った職人が現在の越前市に住むようになり、明治中期ごろに本格的なタンス造りの職人が中心となってタンス町をつくったと言われています。

また、越前箪笥自体も江戸時代末期に作られ始めたと言われていますが、そのルーツはそれよりもさらに昔、奈良時代頃には始まっていたと考えられています。
というのも、法隆寺にある阿弥陀三尊像を安置する橘夫人厨子(たちばなふじんずし ※厨子=物入れ)の台座の中に『越前』の文字が書かれているのが見つかっています。
橘夫人厨子には指物の技術が使われているため、越前の職人が納めたのではないか、と言われているのです。

歴史と尊い技術が詰まった越前箪笥。
興味が湧いて来た方も多いのではないでしょうか。

今回伺った小柳箪笥では、伝統的な越前箪笥はもちろん、木工技術を用いた新しいプロダクトを生み出したり、オーダー家具を作ったり、現代らしい家具の取り扱いもたくさんあります。

私も、越前箪笥の技術を用いた家具をオーダー&自分でも作成に参加したので、詳しくはこちらをご覧ください>>小柳箪笥でオリジナルの家具を注文&手作り体験しました!

小柳箪笥の基本情報・アクセス・マップ

店名 小柳箪笥
住所 福井県越前市武生柳町10-7
電話番号 0778-22-1854
営業時間 11:00〜18:00
定休日 不定休
交通アクセス JR武生駅から徒歩16分
北陸自動車道 武生ICから車で約10分
駐車場 店舗前に数台分あり
SNS instagram @echizentansu.oyanagi
Twitter ー
Facebook @echizentansu.oyanagi
WEBサイト http://oyanagi-tansu.jp

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