旧料亭『蓬嶋楼』と小浜の町

今回ご紹介するのは、小浜市の三丁町にある旧料亭『蓬嶋楼（ほうとうろう）』です。
蓬嶋楼は小浜西組地区の三丁町という、国の重要伝統的建造物群保存地区にあります。

三丁町はかつて北前船の寄港地として巨万の富を得ていた町で、いたるところに港へと通じる細い路地が走っています。

また、通りにはベンガラ格子の家がぎっしりと軒を連ね、随所に寺院が点在しています。
まるで京都のような美しい街並みからは、三丁町がかつて鯖街道を通じて京都と人、物、文化の交流が盛んであったことが伺えます。
なお、三丁町は京都の祇園をモデルにつくられたとも言われています。

歴史ある町はたくさんありますが、その多くは観光客向けに整備され観光客のための町にすり替わってしまっていることが多いと思います。
しかし、三丁町は情緒あふれる街並みと町の人々の生活の営みがありのままの姿で残っている町です。

蓬嶋楼、茶屋文化の漂う異空間。

三丁町は茶屋町として栄えた町でもありました。
格子が施された通りが当時の雰囲気をよく残していて、今にも三味線の音が聞こえてきそうです。

蓬嶋楼はそんな三丁町でも最大の料亭でした。
現在は土日祝日に一般公開されており、常駐しているガイドさんに蓬嶋楼の歴史や建物の特徴についてお話を伺うことができます。

私も、ガイドさんにお話を伺いながら見学してきたので、内部の見どころをご紹介します。

歴史とおしゃれさを感じる「玄関」

まず目に入ってくるのは、明治時代から続く歴史と貫禄を感じる玄関。
床には青と白のさっぱりした昭和風のタイルが貼られていて、おしゃれさも感じられます。

当時の様子が思い浮かぶ「帳場」

入ってすぐに見えるのが長火鉢の帳場です。
かつてはここに女将さんがいて、長火鉢を囲みながら酔ったお客の酔い覚ましを手伝っていたそうです。

奥の方には土台をコンクリートで補強しなければならないほど大きな金庫があり、当時年間1000隻もの北前船が入港していた三丁町の賑わいが伺えます。

当時の女性の姿が想像できる室内

帳場を抜けて奥にある階段は、踏み板中央が丸くなっています。

豪華な着物を纏い、足元の見えにくい芸妓さんの転倒を防ぐためにこのような形になっているそうです。

階段を登った先にある腰掛けられる窓辺。
当時の芸妓さんはここに腰掛け、三丁町を通るお客に声をかけていたのかな？

ちなみに障子とガラスの間にある狭い空間は隣にある床入りの部屋と繋がっていて、芸妓さんが危険を感じた際に逃げることのできる通路としての役割も持っているそうです。

このように、女性が主役の世界ならでは、という部分を随所に見ることができました。

また、ガイドの方からは当時の文化についてもさまざまなお話を伺いました。
たとえば三丁町は茶屋町という特性上、女性を中心とした文化が確立されており、この地域ではお祭りのお神輿にも、女性が乗っていたそうです。

豪華なお座敷

さらに奥へ進むと大きなお座敷が現れます。

お座敷は、客室と芸妓さんの舞台である次の間が襖で仕切られているのですが、開け放つと対角の位置に三日月と満月をあしらった壁の意匠が存在します。
ちょうど左奥に見えるのが満月の壁です。

これはお客と芸妓さんの間に一体感を生み、宴会の場をより楽しむための仕掛けだそう。

写真上部に見えるのは何重にも漆を重ねて作られた木のシャンデリアです。
どう見ても金属にしか見えない重厚感と存在感がある一方で、部屋を照らす照明はとても優しい光で心地よく、作った職人さんの並々ならぬこだわりを感じることができました。

お座敷の中でもう一つ印象に残ったのが、木組と和紙のコントラストがとても綺麗な障子。
この障子には仕掛けがあり、閉め方によって模様が様々な形に変化する仕組みになっています。
この仕掛けは是非ここでご覧になってみてください！

この他にも、隠し部屋や、部屋に広がる金の大きな屏風、著名な画家の絵、繊細な模様ガラス、覗き穴のついたトイレ！？など、お客をもてなすための工夫が財を惜しまず施されています。
まさに現代に残る異空間だと感じました。

当時の空気感が味わえる魅力ある場所を訪ねてみては？

蓬嶋楼はその場にいるだけで当時の人々の賑わいが脳裏に浮かび、その空気が感じられるような魅力ある場所です。
月日が経っても当時の華やかな気配は色褪せることはありません。

福井県小浜市を訪ねた際はぜひ蓬嶋楼へ足を運んでみてください。

蓬嶋楼の基本情報・アクセス・マップ